福岡高等裁判所 平成10年(う)356号 判決 1999年6月01日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役八月及び罰金二一〇万円に処する。
原審における未決勾留日数中二〇日を右懲役刑に算入する。
右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
一 本件控訴の趣意は、弁護人丸山利明、同高橋博美連名作成の控訴趣意書及び平成一一年四月一六日付け控訴趣意補充書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は検察官中野寛司作成の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する(以下、略語は原判決のそれに従う。)。
二 法令適用の誤りの主張について
論旨は、要するに、「原判決は、出資法五条二項所定の割合を超える原判示第一の1ないし4の各利息受領行為を、それぞれ契約ごとに包括一罪として罪数処理しているが、その本則規定にあたる同条一項について、最高裁昭和五三年七月七日判決(刑集三二巻五号一〇一一頁)は、『同項違反の罪が反復累行された場合には、特段の事情のない限り、個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し、併合罪として処断すべきである。』旨判示しており、現行の同条二項はその後の法改正(昭和五八年法律三三号)により、一項の特則として追加されたもので、これは金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合の刑罰金利を一項より引き下げたものにすぎず、規定する行為の態様や罰則は一項の規定と何ら変わりはないのであるから、追加された二項についても右最高裁判例の先例拘束性は及び、本件各利息の受領行為は受領ごとに一罪が成立し併合罪の関係にあるというべきであり、これと見解を異にする原判決には右最高裁判例に反し、出資法及び刑法の解釈・適用を誤った違法がある。そうすると、それぞれが一罪とされるべき本件各利息受領行為のうち、すでに本件公訴提起時に三年の公訴時効が完成している平成七年七月一七日以前のものについては免訴判決がなされるべきであるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな、法令の解釈・適用の誤りがある。」というのである。
そこで検討するに、関係証拠によれば、
1 被告人は、知人又は知人の紹介する人物に反復・継続して高利で金銭を貸し付けていたものであるが、原判示のとおり、いずれもA子に対し期限の定めなく、(貸付番号1)平成六年七月二九日、一五〇万円を月一割(一五万円)の約定で貸し付け、一五万円を天引きした一三五万円を交付し、(貸付番号2)同月三〇日、五〇万円を一割(五万円)の約定で貸し付け、五万円を天引きした四五万円を交付し、(貸付番号3)同年八月五日、一〇〇万円を月一割(一〇万円)の約定で貸し付け、一〇万円を天引きした九〇万円を交付し、また、河本正幸に対し期限の定めなく、(貸付番号4)平成八年七月五日、二〇万円を月二割(四万円)の約定で貸し付け、二万円を天引きした一八万円を交付したこと、
2 右利息の支払いは、被告人の管理する預金口座に振り込む方法でなされることになり、その後、原判示のとおり(一部遺脱があることは後述)、A子に対する貸付番号1の貸付けについては、平成六年八月から同八年一二月までの間三三回にわたり、各月末ころに利息各一五万円が振り込まれた(ただし、うち一回は、どのような支払方法か不明であり、四回ほどは、月の利息を二回ずつに分割して振込支払したもの)のち、翌九年一月二二日利息一五万円を含む貸付金一五〇万円の振込によって完済され、同貸付番号2の貸付けについては、平成六年八月から同八年一二月までの間二九回にわたり、各月末ころに利息各五万円が振り込まれた(ただし、うち一回の支払方法は同様に不明)のち、翌九年一月二二日、利息五万円を含む貸付金五〇万円の振込によって完済され、同貸付番号3の貸付けについては、平成六年九月から同九年八月までの間三六回にわたり、各月初めころに利息各一〇万円が振り込まれたのち、同月二五日、利息一〇万円を含む貸付金一〇〇万円の振込によって完済され、また、Bに対する貸付番号4の貸付けについては、平成八年七月から同一〇年一月までの間三九回にわたり、月に二回ないし二週間に一回の間隔で利息各二万円の振込がなされたが、貸付金元本の支払いはなされていないこと、
3 右各利息の支払いについては、被告人から特段の督促や取立て行為がなされたことはなく、被告人が平成六年八月一七日から同七年七月三日まで、及び平成九年七月三〇日から同年八月一九日までの間、別事件によって逮捕勾留ないし服役していた間も継続してなされたこと、
以上の事実を認めることができる。
そうすると、本件各利息の受領行為は、基本となる四口の金銭消費貸借契約に基づき、約定どおりの利息として、ほぼ定期的に反復・継続し、同じような態様で、被告人側の格別の取立て行為も能動的な受領行為もなくなされたものであるから、単一の犯意のもとになされた一連の行為として、各貸付けごとに包括一罪として評価するのが相当である。所論引用の判例は、出資法五条一項所定の割合を超える利息を天引きした上での金銭貸付けが反復累行された事案(天引き分以外の利息の受領は認定されていない。)について、その契約又は受領ごとに一罪が成立する旨判示するものであって、本件とは事案を異にし、適切でない。(所論は、本件各利息受領行為の罪数を右のとおり解すると、公訴時効の趣旨を没却、無視することになると主張するが、前示のとおり右各行為はそれ自体の特質から各貸付けごとに全体を一罪評価すべきものであって、その結果公訴時効がその行為の終了時点すなわち最終の行為が終わった時点から進行することとなるのは当然であり、これが公訴時効の趣旨を没却、無視したり、また弁護人が弁論で主張するような検察官による公訴時効制度の潜脱を容認するものではない。)
したがって、右と同旨の罪数処理をした原判決に所論の法令解釈・適用の誤りはなく、論旨は理由がない。
三 景刑不当の主張について
論旨にかんがみ、記録を調査して検討するに、本件は暴力団組長である被告人が、原判示のとおり、二名に対し、四口計三二〇万円(天引前の元本)を業として貸し付けるに当たり、一年半ないし三年にわたって、刑罰金利(一日当たり〇・一〇九六パーセント)を超える分だけで約七四〇万円余りの利息(なお、原判決の認定ではこれが七二〇万円余りとなるが、後述のとおり一部計算漏れがある。)を受領し、また無登録で貸金業を営んだという事案であるところ、被告人はこれまでも懲役刑前科二犯(うち一犯は、保護観察付き執行猶予となり、取り消されることなく猶予期間満了)を有し、平成七年七月出所したものであるが、三口の貸付けはその最終刑の言渡しのあった平成六年一一月以前になされ、受刑中もその利息の支払いを自己の管理する銀行預金口座に振り込ませていたもので、遵法精神に欠けるばかりか、被害者(借主)の経済的窮状に乗じて暴利を得た被告人の責任は軽視できない。してみると、被告人は本件を反省していること、本件各貸付けが被害者らの求めに応じてなされたもので、被告人から被害者に対し元利金の返済を強要するような格別の取立て行為等もなされていないこと、被害者らは被告人を宥恕し、処罰を望んでいないこと等、被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、被告人を懲役一年及び罰金二一〇万円に処した原判決の量刑は、原判決言渡しの当時においてはやむを得ないものといわざるを得ず、これが不当に重いということはできない。
しかしながら、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、被告人は被害者A子に二一〇万円、同Bに一〇万円の各弁償をなし、A子において当公判廷に出頭して、重ねて被告人を宥恕する意思を表していること等の事情が認められ、これに前判示被告人のために酌むべき事情を併せ考慮すると、現時点においては、原判決の量刑は重きに失し、これを維持するのは相当でない。
四 そこで、刑訴法三九七条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に従いさらに判決する。
原判決の認定した事実(ただし、原判決第一の事実中、六行目に「三三回」とあるを「三四回」と、次行に「二九回」とあるを「三〇回」と、「三六回」とあるを「三七回」と各訂正し、<1>原判決別紙2「利息一覧表」貸付番号1の回数欄「33」と合計欄の間に一行欄を設け、その回数欄に「34」を、その年月日欄に「9.1.22」を、日数欄に「23」を、受取利息欄に「元利返済内利息分150000」を、法定限度利息欄に「34031」を、超過利息欄に「115969」を各追加したうえ、同表下段の受取利息合計額の記載を「4,500,000円」と、法定限度利息合計額の記載を「1,344,970円」と、超過利息合計額の記載を「3,155,030円」と各訂正し、<2>同一覧表貸付番号2の回数欄「29」と合計欄の間に一行欄を設け、その回数欄に「30」を、その年月日欄に「9.1.22」を、日数欄に「23」を、受取利息欄に「元利返済内利息分50000」を、法定限定利息欄に「11344」を、超過利息欄に「38656」を各追加したうえ、同表下段の受取利息合計額の記載を「1,500,000円」と、法定限度利息合計額の記載を「447,836円」と、超過利息合計額の記載を「1,052,164円」と各訂正し、<3>同一覧表貸付番号3の回数欄「36」と合計欄の間に一行欄を設け、その回数欄に「37」を、その年月日欄に「9.8.25」を、日数欄に「21」を、受取利息欄に「元利返済内利息分100000」を、法定限度利息欄に「20715」を、超過利息欄に「79285」を各追加したうえ、同表下段の受取利息合計額の記載を「3,700,000円」と、法定限度利息合計額の記載を「1,101,823円」と、超過利息合計額の記載を「2,598,177円」と各訂正する。)に、原判決挙示の法案(刑種の選択、累犯の加重、併合罪の処理を含む。)を適用し、その処断刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役八月及び罰金二一〇万円に処し、刑法二一条を適用して、原審における未決勾留日数中二〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清田 賢 裁判官 坂主 勉 裁判官 林田宗一)